80年代女性アイドルのおすすめアルバム 4選

 唐突だけど、80年代の女性アイドルの中で個人的に好きな、オリジナル・アルバムを紹介してみたい。
 80年代歌謡曲の特徴というと、製作陣にこれまでの職業作曲家によるものでない、いわゆるニューミュージック系のシンガーソングライターが多く、参入してくる点だ。
 松田聖子を例にあげればわかりやすい。その作曲陣には、チューリップの財津和夫ユーミン大滝詠一細野晴臣といった、ニューミュージック界の大物がのきなみそろっている。
 この松田聖子が80年代前期のアイドルの基準となっているせいだろうか、同時期のアイドルは、ニューミュージック系のシンガソングライターから楽曲を提供してもらうのが流行りのようになっていた。
 だから正直、そのアイドル自身に興味がなくとも、誰それが提供をしているから、聴いてみたい、なんて曲も数多くあったのだ。
 これがシングル曲ならまだよかった。しかしアルバム収録曲ともなると、そう簡単に聴く機会もなく、かといって、それらすべてをチェックする財力もなく、ということで、あきらめざるをえなかった。
 それが数十年の月日が流れ、今ではストリーミング配信を通じて、そうしたアルバムが聴けるようになったのだ。ありがたいことである。
 というわけで、早速それらを片っ端から聴いてみた。そして気に入ったものを、ここで紹介してみようと思う。

 一枚目は早見優の「ラナイ」。

LANAI

1. 逢いたい気分 作詞・三浦徳子 作曲・亀井登志夫 編曲・村松邦男
2. Sail In The Sunset    作詞・三浦徳子 作曲・亀井登志夫 編曲・村松邦男
3. Summer Holy Night 作詞・三浦徳子 作曲・亀井登志夫 編曲・村松邦男
4. ロコ・サーファー 作詞・三浦徳子 作曲・亀井登志夫 編曲・村松邦男
5. Someonu's Boy   作詞・三浦徳子 作曲・亀井登志夫 編曲・村松邦男
6. Rainy Boy   作詞・三浦徳子 作曲・亀井登志夫 編曲・村松邦男
7. Still Remember You   作詞・三浦徳子 作曲・亀井登志夫 編曲・村松邦男
8. You're So Shy   作詞・三浦徳子 作曲・亀井登志夫 編曲・村松邦男
9. オレンジ・ムーンの恋 作詞・三浦徳子 作曲・亀井登志夫 編曲・村松邦男
10 .Cover The Moon   作詞・三浦徳子 作曲・亀井登志夫 編曲・村松邦男

1983.5

 

 さんざん、ニュージック系のシンガーソングライターが、とか書いておいて何だけど、今作は全て職業作家さんのペンになるものだった。(安倍恭弘をのぞく)
 それはともかく夏をテーマに、ティーンエイジャーの揺れる乙女心を描いた本作は、どの楽曲も明るく、さわやかで、聞いていると、理想の夏休みを仮想体験できる。
 アイドル・ソングがいいのは、むずかしいこと考えず、頭を空っぽに楽しめるところだ。そうした意味で今作はよくできている。

 そしておどろくべきは、今作にシングル曲がふくまれていないこと。
 早見優出世作にして、代表曲の「夏色のナンシー」が、直前にリリースされているにも関わらず、今作には入っていないのだ。アイドルのアルバムとしてはあり得ないことである。つまりそれだけ製作スタッフは、ヒットシングルがなくても、勝負できるだけの自信を今作に持っていたのだろう。
 アイドル、夏のアルバムとして、今作は松田聖子「パイナップル」ならぶすばらしい内容だ。

 二枚目は河合奈保子の「サマー・デリカシー」。

Summer Delicacy

1. 太陽の下のストレンジャー 作詞・売野雅勇 作曲・八神純子 編曲・鷺巣詩郎
2. 街角    作詞・八神純子 作曲・八神純子 編曲・鷺巣詩郎
3. 夏の日の恋 作詞・三浦徳子 作曲・八神純子 編曲・大村雅朗
4. My Boy 作詞・八神純子 作曲・八神純子 編曲・大村雅朗
5. 幻の夏   作詞・売野雅勇 作曲・八神純子 編曲・鷺巣詩郎
6. メビウスのためいき   作詞・来生えつこ 作曲・来生たかお 編曲・大村雅朗
7. 気をつけて夏   作詞・来生えつこ 作曲・来生たかお 編曲・大村雅朗
8. 潮風の約束   作詞・来生えつこ 作曲・来生たかお 編曲・大村雅朗
9. 疑問符 作詞・来生えつこ 作曲・来生たかお 編曲・大村雅朗
10 .涼しい影   作詞・来生えつこ 作曲・来生たかお 編曲・大村雅朗

1984.6


 やはりアイドルには、総じて夏のアルバムができがいいようだ。今作もそうで、これまた、夏のリゾート、避暑地で過ごす夏、という感じ。
 発表されたのは、84年。オリジナル・アルバムとしては8作目。デビューして四年目ということもあってか、そろそろかわいいだけのアイドルから脱皮して、一人の女性歌手として、独自のカラーを打ち出していきたい、との意味合いもあるのだろう。大人びた、しっとりした雰囲気のアルバムに仕上がっている。
 作曲陣は、八神純子来生たかおの二人が半分づつ担当。
 意外なのは八神純子。シンガーとしての印象が強くあるせいだろう、作曲家としても活躍していたんだ、という驚きがあった。曲調としてアップテンポのものが多く、悪くない。
 そして来生たかおは80年代のアイドルの多くに曲を提供している人で、当時を語るうえではかかせない存在だ。今作においても、シングルを始め、スタッフ陣の意向に見事にこたえる、大人びた、しっとりとした楽曲を提供している。今作のアルバムの雰囲気を決定づけているのは彼の楽曲だろう。
 先にあげた早見優の「ラナイ」が昼間だとすれば、今作は夏の夕暮れから夜にかけての雰囲気が濃厚だ。

 三枚目は柏原よしえ「ラスター」。

LUSTER+2(紙ジャケット仕様)

1. もっとタイトに I Love You 作詞・秋元康 作曲・筒美京平 編曲・船山基紀
2. 白いヘリコプター    作詞・下田逸郎 作曲・筒美京平 編曲・船山基紀
3. Look Back もう一度 作詞・銀色夏生 作曲・筒美京平 編曲・船山基紀
4. トレモロ 作詞・松本隆 作曲・筒美京平 編曲・船山基紀
5. 涙が Deja Vu   作詞・秋元康 作曲・筒美京平 編曲・船山基紀
6. Quiet Boy   作詞・下田逸郎 作曲・筒美京平 編曲・船山基紀
7. エトランゼ   作詞・下田逸郎 作曲・筒美京平 編曲・船山基紀
8. 海岸線   作詞・松本隆 作曲・筒美京平 編曲・船山基紀
9. カフェバー・ドンファン 作詞・秋元康 作曲・筒美京平 編曲・船山基紀
10 .フィンガー   作詞・秋元康 作曲・筒美京平 編曲・船山基紀

1984.4


 全作曲を筒美京平、アレンジを船山基紀、といった布陣で製作され、歌謡曲にテクノを取り入れた、最初期のアルバムとして、一部では高い評価を得ているアルバムだ。
 ずっと気になっていたんだけど、CDを買うほどでもないかな、と見送っていた。それがようやく聴くことができたわけだ。
 なるほど。テクノ歌謡として、よくできている。
 筒美京平のつむぐキャッチーなメロディは実にテクノとマッチしているが、キーとなるのは、やはりアレンジを担当した船山基紀だろう。
 音楽業界においては、当時すでに名の知れた、トップ・アレンジャーの一人だったわけだが、時代の潮流に敏感に反応し、いち早くアメリカでフェアライトを習得した、向上心にあふれた人だったようだ。
 その後、帰国、フェアライトを導入し、本格的に取り組んだアルバムがこれということで、気合が入っていて、聞き応えがある。
 そしてまた、これに応えて歌う、柏原芳恵も、器用に歌いこなしているのはさすがである。というか、河合奈保子にしろ、柏原芳恵にしろ、あらためて今聞くと、実に歌がうまかったのだと気づく。

 そして次の彼女もまた歌がうまい。四枚目、岩崎良美「セシル」。

Cécile

1. Vacance 作詞・青木 作曲・パンタ 編曲・清水信之
2. 愛してモナムール    作詞・安井かずみ 作曲・加藤和彦 編曲・清水信之
3. カメリアの花咲く丘 作詞・安井かずみ 作曲・加藤和彦 編曲・清水信之
4. 想い出Rainbow 作詞・なかにし礼 作曲・パンタ 編曲・清水信之
5. そしてフィナーレ   作詞・竜真知子 作曲・藤崎良 編曲・大村雅朗
6. どきどき旅行   作詞・安井かずみ 作曲・加藤和彦 編曲・清水信之
7. 初めてのミント・カクテル   作詞・安井かずみ 作曲・加藤和彦 編曲・清水信之
8. 雨の停車場   作詞・大貫妙子 作曲・大貫妙子 編曲・船山基紀
9. 私の恋は印象派 作詞・安井かずみ 作曲・加藤和彦 編曲・清水信之
10 .Telefonade   作詞・岩室先子 作曲・清水信之 編曲・清水信之

1982.6


 彼女に関しては、岩崎宏美の妹、そしてタッチの主題歌の人という以外、これといって印象はなかった。
 今聞くと、歌もうまいし、シングルになった曲も悪くないのだが、いまひとつ波に乗り切れずに、ブレイクしそこねた感じがある。  
 というわけで、まったく、チェックしていなかったのだが、とある音楽ブログで紹介されていて、気になってスポティファイで聞いてみたら、すぐに気に入ってしまった。
 幾人かの曲提供者の中で、中心となっている、加藤和彦の曲が特にいい。「どきどき旅行」とかコミカルな感じがして最高である。
 加藤和彦もこの時期は、けっこうアイドルに曲を提供して、どれもクオリティは高いのだが、不思議とヒット曲は少ない。唯一、飯島真理の「愛・おぼえていますか」がチャートインしたくらいだろうか。
 どうも提供するアイドルのチョイスを読み誤っていた、という気がするのだが、この辺は謎である。
 で、アルバムの印象はジャケットから推察される通りの、避暑地で過ごすバブリーな夏、といったところで、これまたテーマは夏。
 というか改めて並べてみると、私は、夏にテーマにした、しっとりとした雰囲気のアルバムが好きだと気づいた。そしていずれも歌が上手いアイドルばかり。結局、私の場合、アイドルとはいっても、求めているのは外見よりも歌唱力なのだろう。
 といったところで、80年代女性アイドルのアルバムを四枚紹介させてもらった。あくまで個人の好みなので、誰もが気にいるとはかぎらないが、「spotify」などで聞けるので、気楽に耳をかたむけてみてほしい。そしてこれがきっかけとなって、また新たな音楽にあなたが出会えることができたなら、これ以上の喜びはない。
 ……と、それっぽい文章で締めさせてもらいました。
 以上です。